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大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)1079号 判決 1961年8月09日

判  決

尼崎市昭和北通三丁目三一番地

控訴人

破産者摂津綜合事業協同組合

破産管財人

江口十四夫

芦屋市打出翠ケ丘一〇五番地

被控訴人

山根長児

右訴訟代理人弁護士

田島淳太郎

林三夫

長尾悟

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、当事者の申立。

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

二、当事者の主張。

被控訴代理人は、請求の原因として、「被控訴人は、訴外高橋秀吾から、破産者組合振出にかかる、金額を金五〇万円、満期を昭和三〇年一二月三一日、振出地及び支払地を西宮市、支払場所を神戸銀行西宮支店、振出日を同年一一月三〇日、受取人を右訴外人とした約束手形三通を白地式により裏書を受けたので、満期日にこれを支払のため支払場所に呈示したところ、支払を拒絶されたから、ここに破産管財人たる控訴人に対し、右手形金合計金一五〇万円、及び、これに対する満期の翌日から完済まで、手形法所定年六分の利息金の支払を求める。」と述べ、控訴人の抗弁に対し、

「(一)、(1) 控訴人の、自己取引を理由とする、本件手形原因関係たる金銭消費貸借、及び、本件手形振出行為無効の主張は、時機におくれたもので却下さるべきである。

(2) 仮に却下さるべきではないとしても、原因関係たる金銭消費貸借成立当時、及び、書換前の原始手形振出当時、いずれも、訴外高橋は破産者組合の理事に就任していなかつたものであり、また、本件手形振出当時、同訴外人は既に破産者組合の理事を辞任していたものであるから、右各行為につき破産者組合理事会の承認を受ける必要がなかつたものである。

(3) 仮に前記各行為当時、右訴外人が破産者組合の理事であつたとしても、原因関係たる金銭消費貸借ならびに本件手形振出行為は、いずれも破産者組合の利益になりこそすれ、右訴外人との間に利害の衝突をきたすものではないから、いわゆる組合と理事との自己取引に該当しないものである。

(4) 仮に以上の主張が理由がないとしても、破控訴人は右各事実について善意で本件手形を取得したものであるから、有効に本件手形金債権を取得したものである。

(二) 控訴人主張の旧手形が、いわゆる見せ手形であることを否認する。仮に旧手形が見せ手形であつたとしても、被控訴人はこれにつき善意で旧手形を取得したものであるから、破産者組合は右事実をもつて被控訴人に対抗できない。もつとも、旧手形の内一通が不渡りとなつたので、被控訴人が訴外高橋を同道して破産者組合を訪ずれた際、破産者組合から、旧手形を他に譲渡しない特約が右訴外人との間になされていたことを聞いたが、破産者組合は善意の取得者たる被控訴人に対する旧手形金の支払義務を認め、これが支払期日を延期する趣旨で本件手形を振出したものである。

(三) 控訴人の、旧手形金の支払にかえて本件手形を振出したという主張事実を否認する。本件手形は前記の通り支払延期手形として振出されたものであつて、新旧手形は同一性を有するものである。」と述べた。

控訴人は、答弁として、「被控訴人主張の請求原因事実はすべて認めるが、次の理由により控訴人には本件手形金を支払う義務がない。即ち、

(一) 訴外高橋秀吾は破産者組合の理事であつたもので、組合理事が組合と取引をするためには、組合理事会の承認を受けることを要することは中小企業等協同組合法第三八条に規定され、右承認を受けることなくしてなされた取引行為は無効であるところ、右訴外人と破産者組合との間になされた本件手形の原因関係たる金銭消費貸借、及び、本件手形振出につき、破産者組合理事会の承認を受けていないから、結局本件手形の振出は無効であり、控訴人には本件手形金を支払う義務がない。

(二) 本件手形は、破産者組合がさきに訴外高橋に対して振出していた約束手形三通を書換えたものであるところ、右旧手形はいずれもいわゆる見せ手形として、破産者組合において手形金を支払う意思なく、受取人たる右訴外人においても手形債権を取得する意思なく、これを授受したものであり、被控訴人は右事実を知りながら旧手形を取得したものであるから、その後右旧手形を書換えたに過ぎない本件手形についても、控訴人に支払義務がない。

(三) 仮に以上の抗弁が理由がないとしても、前記旧手形を本件手形に書換えたのは、単に支払期日の延期ではなく、旧手形金の支払にかえる趣旨でなされたものであり、被控訴人は本件手形取得の際、旧手形がいわゆる見せ手形であつたことを知つていたものであるから控訴人には本件手形金を支払う義務がない。」と述べた。

三、証拠(省略)

理由

一、被控訴人が訴外高橋秀吾から被控訴人主張の通りの約束手形三通を白地式により裏書を受けたところ、被控訴人主張の通り右手形金の支払を拒絶さされたことは、当事者間に争いがない。

二、よつて控訴人の抗弁について判断する。

(一)、(1) 控訴人が、当審における第一七回口頭弁論期日(昭和三五年六月一八日)にいたり、はじめて控訴人の抗弁(一)として摘示したいわゆる自己取引による本件手形振出の無効の主張をしたことは、本件記録により明かであつて、右主張の提出は時機におくれた観があるけれども、これがため特に訴訟の完結を遅延させるものとは認められないから、被控訴人の、右主張を却下すべぎ旨の申立は理由がない。

(2) 本件手形が、さきに破産者組合が訴外高橋秀吾に対して振出していた約束手形三通の書換手形であること、右旧手形が、右訴外人と破産者組合との間に成立した金銭消費貸借による債務支払のために振出されたものであることは、(証拠)によつて認められ、(中略)右認定を覆えすに足る証拠がない。

ところで、中小企業等協同組合法第三八条は、組合理事が組合と契約を締結するためには、理事会の承認を受けるべき旨を規定しており、右規定に違反してなされた行為は無効であると解すべきところ、破産者組合が同法の適用を受ける協同組合であることは弁論の全趣旨によつて明かであるから、訴外高橋が前示消費貸借成立当時破産者組合の理事であつたときは、右法条の適用を受け、理事会の承認を受けていない限り、右契約が無効であるといわねばならない。

よつて、右消費貸借成立当時、訴外高橋が破産者組合の理事であつたかどうかの点について考えてみるに、これを肯認するに足る証拠がない。却つて、前掲証拠を総合すると、右訴外人は、昭和三〇年七月初頃破産者組合の理事に就任したものであるが、右消費貸借は、いずれも理事に就任する以前である同年三、四月頃に成立したものであることが認められ、(証拠)右認定を覆えすに足る証拠がない。

そうすると、本件消費貸借成立当時、訴外高橋が破産者組合の理事であつたことを前提とする控訴人の抗弁は理由がない。もつとも、本件手形の直前の手形たる旧手形三通が、右訴外人の理事在任中に振出されたことは、前掲証拠によつて認められるけれども組合が、理事に対し、その理事就任前から負担していた金銭債務の履行のために約束手形を振出す場合には、前示法条の適用を受けず、従つて、これにつき理事会の承認を必要としないと解すべきであるから、前示同様の理由による旧手形―従つてその書換手形たる本件手形―振出行為の無効を主張する控訴人の抗弁も理由がない。

のみならず、(証拠)を考え合わせると、右消費貸借については、当初から破産者組合において借用証を作成せず、すべて満期を一ケ月先とする約束手形を振出し、この手形が支払期日延期の趣旨で大体一ケ月毎に書換えられてきたものであつて、その最終書換手形が本件手形であることが認められるところであり、(中略)右消費貸借成立と同時に振出された基本手形の振出について、破産者組合理事会の承認を受ける必要がないことは、消費貸借について理事会の承認を必要としないという前示同一理由によつて明かであるから、右基本手形の書換手形たる本件手形振出についても理事会の承認を受ける必要のないことはいうまでもないところであり、従つて、この点からみても控訴人の右抗弁は理由がない。

(二)  控訴人は、前示旧手形がいわゆる見せ手形であることを前提として本件手形金支払義務がないと抗争するところ、旧手形がいわゆる見せ手形でないことは前認定の通りであるから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の右抗弁は採用できない。

三、してみると、破産者組合は、被控訴人に対し、本件手形金合計金一五〇万円、及び、これに対する満期の翌日たる昭和三一年一月一日から完済まで、手形法所定年六分の利息金を支払う義務があるわけであるから、破産管財人たる控訴人に対し、これが支払を求める被控訴人の本訴請求を認容した原判決は結局正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文の通り判決する。

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 亀 井 左 取

裁判官 杉 山 克 彦

裁判官 下 出 義 明

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